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固定残業代

最近,従業員に支払う残業代の割増賃金について,毎月一定時間分を固定額として支給することについてご相談を受けることが多くなりました。

いわゆる固定残業代ですが,下記のようなメリット・デメリットがあります。導入をご検討する際には参考にしていただければ幸甚です。

まず,固定残業代の導入のメリットとしては,一定時間の枠内で残業代を一律計算・支給することができるため,賃金処理の効率化を図れるというものがあります。また,従業員の方の固定の月収が増えるため,従業員の方の満足を得られる可能性があります。

しかし,固定残業代を導入することで,法定の割増賃金よりも安く済むことにはなりません。固定残業代支給について,固定額で支払われる金額が,法所定の計算による割増賃金を下回らない限りは適法とされており(関西ソニー販売事件・大阪地判昭和63年10月26日),法所定の計算による割増賃金を下回る場合は違法と考えられるからです。また,固定残業代相当の労働時間を超過した場合,超過した時間に対しての残業代は当然発生します。

さらに,例えば「営業手当」の名目で固定残業代を支払っている場合など割増賃金に相当する部分とそれ以外の賃金部分が明確に区別できないような場合には,時間外労働に対する割増賃金の支払いがなされたとは認められない可能性があります。

そのような場合,割増賃金として支払っているはずの固定額分まで割増賃金の計算基礎に算入されて想定外のコストにつながる危険性があります。また,固定残業代に相当する一定時間の残業が発生しなければ,不必要な支出につながる可能性も否定できません。

そのため,コスト面を考えての固定額支払いであれば,固定残業代の導入については慎重にご判断いただいた方がいいのではないかと考えます。

弁護士 笠谷太郎